手術(後編)

車いすに乗せられ手術室へ向かう。

看護師と話してる時は、まだ余裕があった。

何枚か扉を抜けると、さすがに緊張してきた。

最後の扉の前で止まった。

よくドラマで見る「手術中」の文字が目に留まった。

もう後には引けない。

手術台に横たわり、心を落ち着かせる。

麻酔の準備が始まっている。

麻酔医から説明を受け、左腕を差し出す。

一回目は失敗。

二回目も失敗。

血管が見つけにくいのだろうか?

初めからかなりの不安に襲われた。

そこで今度は利き腕の右腕で挑戦。

三回目にしてやっと成功したようである。

麻酔が血管に沿って流れていくのがわかる。

その流れに合わせるように指でさすってくれる。

「だんだん眠くなってきますよ」

そんな簡単に眠くなるかよと思った瞬間

目の前に霧がかかり意識を失った。

手術(前編)

6時前に目が覚めた。

あまり眠れなかった。

緊張もあるが、隣のいびきがうるさかった。

6人部屋なので仕方がない。

手術は8時からなので、まだ時間がある。

昨日言われてたT字体を買いに行った。

どういうものかさっぱり分からず、

売店で聞いたら奥から出してくれた。

なんじゃこれ?ふんどし?

結局、付け方が分からなかったので

看護師に教えてもらった。

なるほど。自分が思ってたのと逆だった。

確かにこれなら下の世話も楽そうだ。

よし、準備万端。

時間まで待つことにしよう。

 

入院

いよいよ入院の日が来た。

初めての入院なので何もかもが新鮮だ。

お金はかけたくなかったので6人部屋になった。

軽く挨拶を済ませ、病衣に着替える。

隣は膝関節の手術をしたお喋りなおじいちゃん。

目の前は股関節の手術をしたお兄ちゃん。

関節はリハビリに時間がかかるらしい。

手術前検査を受けて、夜に手術説明を受けた。

難しい手術ではないが、全身麻酔を使う。

目が覚めなかったらどうしよう・・・

そんなことを考えながら眠りについた。

 

健康保険限度額適用認定証

入院費、手術費はいくらくらいかかるのだろう?

高額療養費制度のことは知っていた。

自己負担限度額を超えた分が払い戻しされる。

一時的にではあるが全額払わなければならない。

何とかならないものか?

調べてみると、事前に申請ができるらしい。

「健康保険限度額適用認定証」

入院するときにこれを持って行くと、

支払いは自己負担限度額で済む。

早速手続きをして、限度額適用認定証を入手。

これでお金の心配はなくなった。

悶々とした日々

駅伝(5km)は無事に終了した。

無理をしたら骨折するかもしれないと

言われていたが、何とか持ってくれた。

それからは走れない日々が続いた。

走りたいのに走れない・・・

何ともやるせない気持ちだ。

手術の日程も決めなければならない。

病院は何ヶ所か候補があったが近場に決めた。

ベッドの空きがなく、入院まで3ヶ月待ち。

手術が決まっていたので、湘南国際マラソン

エントリーを断念したばかりだ。

早く治したい気持ちが空回りしていた。

板橋Cityマラソンまでに間にあうのだろうか?

ドクターストップ

「この状態で走るのはやめた方がいい」

先生はレントゲンを見ながら言った。

1週間後の駅伝には絶対出たいと想いを伝え、

しぶしぶOKをもらった。(自己責任だが)

せっかくマラソンで走る楽しみを知ったのに

今後走れなくなるなんて考えられなかった。

手術をすることに決めた。

どのような手術か聞いてみた。

・骨に穴を開ける

・中の腫瘍を掻き出す

・人工骨を埋める

・入院は1週間程度

半年は走れない生活を送ることになるだろう。

膝の痛みがとれたのは大会から3ヶ月後のことである。

内軟骨腫

大会から1ヶ月半が経とうとしていたが、

相変わらず膝は痛い。

激痛ではないので、短い距離を走り始めた。

膝以外にも右足の中指が痛み始めた。

1週間後には駅伝が控えてるのでヤバイ。

今度は他の整形外科へ行くことにした。

膝と右足中指のレントゲンを撮った。

膝はやはり問題なく湿布で様子見。

問題は右足中指。

レントゲンを見ながら説明をしてくれた。

骨が白く写されてる中、一部が黒くなっていた。

「ここが腫瘍です」

「え?腫瘍?骨の中に?」

「内軟骨腫という骨の中にできる腫瘍です」

腫瘍と聞いてビックリしてしまったが、

これは良性の腫瘍とのこと。

簡単に言うと骨の中が空洞で折れやすい状態。

治すには手術するしかない。

日常生活に問題がなければ手術する必要はない。

・走るために手術をするか

・走るのをやめて手術をしないか

究極の選択である。